世界に名高いイギリスの名門校ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)。毎学期決まってアクセス集中する履修登録の時期、同校ではどのようにシステム障害を防止し、生徒にスムーズなユーザー体験を提供しているのでしょうか。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)は、1895年に設立されたイギリスの公立大学です。主に社会科学の分野で、世界トップレベルの研究・教育水準を誇り、開校時のキャンパスはたった3部屋だったという同校は、現在では11,000人以上の学生が在籍しています。(エクステンションプログラムの学生を含めると50,000人以上。)
LSEが名門校としての地位を築いている秘訣は、学問の質だけではありません。同校の成長戦略ステートメント LSE 2030 Strategyを見てみると、講義内容のみにとどまらず、学生生活に関するあらゆるサービスを充実させることが学生の成長につながるという信念がうかがえます。
LSEのビジネス改善部門チーム(写真右:エドワード氏)
中でも、各種手続きがオンライン化された現在では、IT基盤を整えることは同校にとって不可欠でした。特に、科目登録など学生にとって大事なイベントの際にはどうしてもアクセス集中が避けられず、システム障害が起こりがちになっていたと、ビジネス改善部門の責任者であるシェリル・エドワード氏は語ります。
今回は、エドワード氏のチームがどのようにQueue-itの仮想待合室を使って科目登録時のオンライン体験を向上させたのかを伺いました。
多くの大学と同様、LSEでは年に数回行われる科目登録時のアクセス集中が課題となっていました。登録開始時間になると、学生が一気にシステムへアクセスするためサーバーに過負荷がかかり、障害が起こることも多々あったと言います。
同校では学部の区分に関係なく履修できる自由科目の幅が広く、その中には世界的に有名な教授が担当する、かなり競争率の高い授業もあります。
「科目登録期間が開始すると全生徒が一斉にアクセスするため、膨大なプレッシャーでした。どうにかして障害を防ぎ、学生が公平に登録できるようなシステムを用意できないかと考えていました。」
LSE ビジネス改善部門 シェリル・エドワード氏
エドワード氏が率いるビジネス改善部門のミッションは、学生と職員の体験を向上させるためのプロジェクトを推進することです。パンデミック後は、アクセス集中が起こりエラーが多発していた科目登録時のシステム改良に焦点を当てていたと言います。
「学生にとって、どの科目を履修するかは非常に重要な選択です。特に新入生の場合は、科目登録は大学との最初のタッチポイント。このプロセスを最適化し、生徒たちが良いスタートを切れるようにしたいと考えていました。」
いくつか対策を講じてはみたものの事態は改善されず。そんなある日、チームメンバーの一人がネットショッピングの際に仮想待合室に案内されたそう。その体験をチームに持ち帰り、待合室を検討し始めたと言います。
「これまではどのように内部システムを改良して処理力を増やすかということに捉われていました。しかし、既存のシステムを変えることなく導入でき、学生の体験を改善できるソリューションがあると知り、大変興味が湧きました。」
エドワード氏のチームは導入に向けて本格的に準備を開始。その際、「具体的に何が変わるのか、学生や職員にとってどのようなベネフィットがあるのか」といった点を明確に伝えることを重視したと言います。100年以上の歴史を持つ教育機関の看板を背負う身として、信頼を失わないように慎重に臨むことが大切でした。
「学生を対象にワークショップを開催し、待合室ありの場合のユーザージャーニーを紹介。その後使いやすいと思うかどうかについてフィードバックセッションを設けたのですが、とても肯定的な意見ばかりでした。」
また、職員に同様の紹介をした際にも、ポジティブな声を受けたと言います。「”学生を待たせるなんて!”という声が内部から出ることも覚悟していました。しかし蓋を開けてみると、反対の声は皆無。非常に嬉しいコメントばかりでした。」
試験運用を経て、待合室の本格的な導入作業を開始。それ以降も、エドワード氏のチームは、ユーザージャーニーの動画ガイドを提供するなど、学生や職員に向けて入念なコミュニケーションを心がけたと言います。
LSEは2022年の学部・大学院向けの科目登録で初めて待合室を使用。開始時間が始まるまではカウントダウン画面(プレキュー機能)を表示することでイベント前のサーバー過負荷を防ぎ、開始後は待合室から先着順に学生を科目登録ページに案内しました。
LSE科目登録で使われたプレキュー画面
「LSEのブランドに沿った画面デザインにカスタマイズしたことで、”外部システムに飛ばされた”というような感覚のない、スムーズなフローを提供することができました」とエドワード氏。
「学生体験の向上を真剣に捉えるLSEの方針に合うソリューションでした。また、たとえ希望の科目が埋まってしまったとしても、進行状況を表示したり、先着順に案内していることを伝えることで、生徒のストレス軽減につながりました。」
LSEの科目登録時の待合室画面
登録システムに関わる全員が「かなり緊張する瞬間」だったという科目登録。しかし、待合室を導入したことで障害もなく、スムーズに進めることができたと言います。LSEのデータ・開発責任者であるアーロン・ドナルドサン氏は、次のように語ります。「新たな試みだったので緊張しましたが、思い描いていたシナリオ通りに機能したので安心しました。待合室のおかげで、学生がシステムから勝手にログアウトされたりすることなく、公平かつ安定した速度登録ページに案内できるようになりました。」
また、Go Platform(管理画面)からリアルタイムのトラフィック情報が見えるのも利点だったとエドワード氏は振り返ります。「学生が学部に直接問い合わせることもあるため、最大待ち時間や列の進行状況といった情報を各学部とも共有していました。透明性が高く、迅速に生徒の質問に回答できたとポジティブな評価をもらいました。」
仮想待合室の導入によってスムーズになった科目登録について、LSEの学生からもたくさんの高評価が寄せられました。例えばある学生は次のようにコメントしています。
「図書館への移動中に待合室に並んでいたのですが、メトロに乗り降りする中でネット接続環境が不安定だったにも関わらず、自分の順番がキープされていたので安心しました。これまでとは打って変わり、ストレスなく履修登録ができました。」
積極的に学生と職員へのサービスを向上することが、学生の学業面を支えること、そして名門大学としての地位を強化することにつながると考えるエドワード氏。これからも LSE 2030 Strategyに沿って、サービスの質を上げるための施策に取り組んでいくと言います。
「私たちのチームはまだ新しいチームではありますが、様々なニーズに応えるために規模を拡大中です。学生生活の体験を向上させるための姿勢を貫くことで、”大学側が本気で向き合ってくれている”という印象を学生にも持ってもらえる。Queue-itで科目登録プロセスを改善したのは、その中でもとても重要なステップでした。」