日本初のローコストキャリアとして運航を開始し、国内LCC最大手、業界全体でも第三位の位置を占めるPeach 。その成功の背景には、運賃の手軽さだけではなく、あらゆる顧客との接点において優れたカスタマーエクスペリエンスを届けることへのこだわりがありました。システムへの負荷が生じやすいキャンペーン時、同社はQueue-itを使ってどのように満足度の高い顧客体験を届けているのでしょうか。
「誰もが気軽に空の旅を楽しめる社会を作り、ヒト・モノ・コトの交流を深めること」。これは、Peach Aviation株式会社(以下Peach)が創業以来大切にしているモットーです。
フルサービスキャリアが一般的だった2012年、日本国内初のローコストキャリアとして運航を開始。国内のLCCでは第1位、航空業界全体でも二大キャリアに次いで第3位という好調な業績で、国内線25路線、国際線12路線を展開中です。(2023年12月時点)
「Peachでは”空飛ぶ電車”というのをコンセプトに、空の旅をより身近で気軽な存在にするために様々な工夫をしています。価格の低さだけではなく、事故なく安全にお客様を目的地までお送りする信頼性や、各タッチポイントで便利にご利用いただける環境を整えてこそ、人々に選ばれる交通手段になると考えています。」こう語るのは同社イノベーション本部本部長の村上篤実氏です。
価格による優位性ではなく、顧客の視線に常に寄り添うことで、Peachはターゲットである女性や学生、ファミリー層からの支持を獲得しました。しかし、人気上昇に伴って顕在化してきたのがアクセス集中時のシステムへの負荷やパフォーマンスの低下です。今回は、同社がどのようにこの課題に取り組み、過負荷時にも優れた顧客体験を提供しているのかを伺いました。
Peachでは、一年を通してセールやキャンペーンを盛んに実施しています。こうした催しは、特にコロナ収束後に盛んに行われるようになり、長らく自粛を強いられていた人々の旅行欲と相まって大きな反響を呼びました。村上氏は当時の状況をこのように振り返ります。
「たくさんのお客様にサイトを訪問いただける一方、システムにかなりの負荷がかかっていました。オートスケールで対応してはいたものの、想定を超える数のお客様が来てサーバー増強が追いつかないこともあり、ハンドリングに困っていました。」
オートスケールを補うために、トラフィックが一定数を超えると自動的にアクセス数を制御するフィルタリング機能も用意。しかし、顧客体験の質の低さがネックだったと言います。
「Sorryページで門前払いするような仕組みだったので、なかなか快適にお買い求めいただけず、SNSでも『繋がらない』というようなお声が多数ありました。路線数の増加により、必然的にウェブサイトへのアクセス数も増えてきたこともあり、何か策を立てなければと考えていました。」
また、当時Peachでは2023年3月1日の就航11周年記念に向けて様々な催しを企画していた最中だったため、「いかに周年セールで心地よく買い物していただけるかが緊急の課題だった」と村上氏は言います。
そんな中、村上氏のチームが着目したのがQueue-itの仮想待合室でした。待ち時間や案内文を表示でき、先着順でユーザーをチケット販売ページにリダイレクトする待合室は、Peachのニーズを絶妙に反映したソリューションだったと言います。
「実際私も待合室をユーザーとして使ったことがあるのですが、顧客体験をいかに良くするかに目をつけ、追求しているソリューションだと感じました。Peachが目指すべき次の顧客体験ってこういうことなのかなと。これまでの一方的なコミュニケーションだったSorry Pageに比べて、お客様からの満足度を大幅に改善できそうだと思い、コンタクトしました。」
また、システム面でもメリットがあったとのこと。「サイトのキャパシティを変えることなくパフォーマンスが向上できる点、システムの許容量に応じてアクセス量を調整できる点も良いと思いました。」
実装方法はAkamai EdgeWorker Connecterを選択し、Queue-it とAkamaiのサポートを受けながら、1週間ほどで完了したと言います。
「Akamai EdgeWorkersへの実装は非常に簡単でセキュアでした。おかげさまで、就航11年セールに向けて短期間で実装を行うことができました。」
イノベーション本部本部長 村上篤実氏
こうして仮想待合室を導入し挑んだ11周年記念セール。2月27日から5日間実施されたこの企画では、国内線が片道1,111円から、国際線が最大11%オフと、お得な価格の航空券が並びました。
開始時刻前後、Peach公式予約サイトにトラフィックが急増。ピーク時のアクセスは分間4,000以上、販売期間全体の合計アクセス数は200万人を記録するなど、Peachの人気度を象徴するイベントとなりました。
「こうしたアクセス集中は従来大変なストレスでしたが、仮想待合室を設置していたことでトラフィックを受け止められる環境が整っており、滞りなくスムーズな販売ができました。」
また、待合室にはPeachらしいポップなデザインを採用。「あらゆるタッチポイントでかわいい印象を持っていただけるよう意識しながらブランディングしているので、画面がカスタマイズできる点も良かったです」と村上氏は言います。
待合室は周年セールに参加したユーザーからも好評でした。村上氏は「アンケートやSNS上でポジティブな意見を多数いただき、顧客体験価値を高められた」と振り返ります。
村上氏によると、仮想待合室はPeachサイトの顧客体験のみではなく、「チーム全体の心境にも大きな変化を与えた」と言います。
「以前までは、繁忙期にサーバーがダウンしたり、快適にご利用いただけない状態になってしまうのが不安でした。仮想待合室を導入してからは、”守られている”という気持ちが強くなり、営業活動に専念できるようになりました。」
また、Queue-itの直感的なUXが「安心感につながった」とも言います。「ダッシュボードが非常にわかりやすいため、システム側だけではなく、ビジネス側のユーザーも、設定からチューニングまで簡単に行うことができます。ITとビジネス、どちらの目線にも寄り添えるソリューションだと思います。」
技術に精通した人材でないと対応できないソリューションが多数ある中、Queue-itのように垣根を越えるツールについて、村上氏はこのように語ります。
「ビジネスとシステム運用が寄り添うことができれば可能性はさらに増えますが、なかなか両方のスキルセットを持ち合わせた人は少ない。そこで、この二つを融合するためのBizOpsソリューションが注目されていますが、Queue-itの仮想待合室はまさにこの象徴的なプロダクトだと思います。」
「誰もが気軽に空の旅を楽しめる社会を作る」というモットーのもと、信頼性、便利さ、価格の手頃さを兼ね備えたエアラインとしてのポジションを確立したPeach。2024年を迎えた今、村上氏はどのようなビジョンを描いているのでしょうか。
「デジタル化の中で、スマートフォンのカメラ越しに繋がることができる時代になりました。しかし、そんな時代だからこそ、実際に大切な人に会いに行ったり、そこでしか味わえない体験をしにいく需要は高まると思います。その際の交通手段として気軽に選んでもらえることにLCCの存在意義があると思うので、これからもいかに快適な旅を提供できるかを追求し続けたいと考えています。」
仮想待合室の導入は、システム障害が起こりやすい繁忙期にもスムーズな顧客体験を提供できるという意味で、まさにこの一例だったと言う村上氏。次なる施策として、Queue-itを活用した会員サービス強化を検討していると言います。
「今後はQueue-itをサイトの保守だけではなく、プロフィットセンターの一部としても活用していきたいと考えています。例えば招待制待合室を使ってPeach会員を優先的に販売へ案内するなど、会員特典を強化することで差別化し、お客様の体験価値を高めていきたいです。」